特集 赤ちゃんの死のケア
胎児・新生児の死をめぐる諸問題と諸外国での対応
竹内 徹
1
1大阪府立母子保健総合医療センター病院
pp.806-812
発行日 1994年10月25日
Published Date 1994/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901110
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周産期医療技術の著しい進歩によって,胎児・新生児に関する人々の考え方や期待は,従来では想像できなかったほど拡大され,増大してきた。胎児については,well-beingの科学的な評価,行動観察,先天異常の診断が進んできたため,異常が発見されると治療の対象と考えられ,出生後は,たとえ超未熟児であっても成育可能な児として新生児集中治療の対象となってきた。したがって周産期医療施設は,安全を保障された出産場所として受け入れられるようになった。それだけに生まれてくる胎児への期待は大きく,もし妊娠が死産に終わったり,出生したばかりの新生児が死亡すると,両親とくに母親は,生と死を同時的に経験するという突然の悲劇に遭遇し,それによって生じた精神的危機に対処しなければならなくなってしまう。
人の死別については,遺族の悲嘆としてすでに古くから,精神科的な,また心理学的な課題として論じられてきた。しかし周産期(胎児・新生児)の死は,周産期死亡率として医学の進歩を評価する対象とはなっても,両親にとっての心理社会的意義については論じられることがなかった。また,それぞれの死亡については,原因の追求を医学的に行なうことはあっても,両親とくに母親のケアの一部として考えられることはなかった。
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