ちょっとサイエンス
更新される細胞,されない細胞
牧 智子
pp.266
発行日 1992年3月25日
Published Date 1992/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900536
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死んだ細胞まで活用するしたたかさ
「細胞」というと,まず細胞が分裂するようすを想像してしまいます。しかし,現実にはいったん完成してしまったが最後,分裂しない細胞も多いのです。前回紹介した,ガス交換のためひたすら働いて約120日の寿命が尽きると死んでしまう赤血球のような細胞も多いのです。しかし,死んでしまったあと,残骸になってまでも私たちの身体の中で重要な働きをする細胞があるのです。たとえばヒトの皮膚がそうです。ご存じのように皮膚は真皮と表皮からできています。この表皮の一番外側にあるのが角皮層です。最近,冬の化粧品はこの部分の乾燥を防ぐために「モイスチャー」「天然保湿成分」をキーワードに商品展開されており,角皮層もなじみ深いものになってきました。角皮層はその部位にもよるでしょうが,厚さわずか20ミクロン(50分の1ミリ)程度,料理用のラップフィルム並みの薄さということです。
こんなに薄い層の保湿をめぐって高価な化粧品が売買されているわけですが,実はこの角皮層,前述のように生きた細胞の残骸にすぎません。真皮は肌の「本体」部分で中には血管も通っており,線維細胞,線維芽細胞などの細胞があります。真皮で作られた細胞は表皮を形成し,一定期間がすぎると外側に押し出され,その過程で核は消失し,細胞の残骸となるのです。その最期の姿が角皮層というわけです。
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