連載 2冊の本
「娘たちは根腐れて」—繁栄日本のカラクリ装置をあばく/「命の重さ」—日本の家族はどこへ行くのか
高橋 真理
1
1東京都立医療技術観期大学専攻科
pp.1036-1037
発行日 1991年11月25日
Published Date 1991/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900458
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いい時代になった。科学技術の進歩と高度経済成長は,豊かな物質と快適な生活を提供してくれた。しかし急スピードで走り続けてきた高度成長は,いつも多忙で矛盾した生活を強いる時間泥棒でもあった。私たちはほとんど実感したりしみじみと感じとるという内面の豊かさを切り捨てて,恐ろしく感覚的に生きている。そんな中で今ほとんどの人が,「なぜか心が満たされない」「生きている喜びを感じられない」など“生きていることの希薄”とでもいえるような,特有の心の問題を持っているといえる。
自由になった。価値観が変わった。生き方に対する考えが自由になった。しかし,この自由ほど大変で難しいことはないかもしれない。ちょっと昔までは,「まあ,女の子なのに。そんなことをしたらお嫁に行けませんよ」といわれたように,女の枠(きまり)に縛られてもいたが,自分を規制してくれるモラルがあった。男も同様である。しかしこういった枠がなくなってきた現代では,どのように生きるか,自分の人生選択は間違っていないかなど,生き方を自分で決めて生きなければならなくなった。モデルもいない。簡単に「いろんな生き方がありますよ。あなたらしく生きたらどうですか」とか「本当の自分になりましょう」といわれても,どこに依り処を求めたらよいかわからないのが現状であろう。「どこにも私の行き場はないんです」と心で叫んでいる人も少なくないと感じる。
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