連載 おとめ山産話
閾値:耐性と原痛
尾島 信夫
1
1聖母女子短期大学
pp.930
発行日 1986年10月25日
Published Date 1986/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206987
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特別な痛がりやでもなく,ラマーズ法の勉強もしていない普通の妊婦にお産が始まったとして,その陣痛曲線を拡大して考えると,発作の曲線が20mmHg程度に上ったところで,外診上も子宮収縮の触知が可能となり,25mmHg程度で産婦が産痛を感じ始めるのが標準的である。心理学的にはこの場合,閾値は25mmHgということになるが,このように自然に現われてくる産痛を私は原痛と呼びたい。この原痛が収縮発作の反復進行につれて増強し,ついにそれ以上の痛みに耐えられなくなって産婦が自制できなくなり,大騒ぎをしたり,麻酔を求めるようになった時,その程度の強さを耐性(tolerance)という。
私はマザークラスでこういう説明をしてから,しかしあなたがたがこれからラマーズ法をしっかり修得し,その実技を忠実に反復するならば,数週後に本番の分娩を迎えた場合には,閾値ははるかに上昇して,産痛を感じる範囲は発作曲線の中の一部分に限られ,産痛の強さも軽くなり,なによりよいことは,閾値の上昇とともに耐性も上昇して,遂に自然の発作である限り耐性には達し得なくなる,と話している。つまり子宮内圧の上昇が弱くなるのではなく,内圧上昇という刺激に対する(痛みを感じる)感受性が弱くなる。ここで間違えてならないのは閾値も耐性も刺激である内圧の方の数値だから,上昇するわけで,ラマーズ法で閾値が下降したとはいわないでほしい。
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