特集 妊娠と糖尿病
糖尿病合併妊娠と先天異常
舟木 賢治
1
1鳥取大学解剖学第一教室
pp.818-825
発行日 1984年10月25日
Published Date 1984/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206527
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はじめに
糖尿病合併妊娠では,妊娠中毒症や羊水過多症を合併することが多く,児の周産期死亡率が高いのが特徴である1)。また,母体糖尿病は胎児の発育にも著しい影響を及ぼし,糖尿病性胚胎病(embryopathia diabetica)とよばれる特有の発育障害あるいは疾患をひき起こす。このように母児ともにハイリスクの中にある糖尿病合併妊娠の頻度は増加の一途をたどり,産科領域においてますます深刻な問題となっている。
最近では,糖尿病の治療や周産期医学の進歩により,周産期死亡は次第に減少してきた2,3)。しかし,糖尿病性胚胎病の1つである先天奇形の発生頻度は依然として高く,正常妊娠における頻度の2〜4倍といわれている4)。このような奇形発生の増加は,父親が糖尿病でも母親が正常の場合には認められず,母親が糖尿病である場合に限られている。また,妊娠初期での母体糖尿病のコントロールが不良である場合,奇形の発生頻度が特に高い5,6)。これらのことから,奇形の増加は,主として糖代謝異常を中心とした母体環境における恒常性の乱れによるものであると考えられている7)。しかし,糖尿病母体環境が胎児発生のどの段階で影響を及ぼし,どのような機序で奇形が生じるのかはよく解っていない。糖尿病婦人の児における奇形発生を防止するためには,これらの問題を解明することが重要である。
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