産育習俗今昔
8.産衣—物から人間へ
鎌田 久子
1
1成城大学
pp.679-683
発行日 1982年8月25日
Published Date 1982/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611206073
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産衣の名称
産衣は今日では非常に華美なものを用いるようになってきているが,一方,生まれた直後はまだ完全な衣服を身につけるものではないといって,母親の腰巻などに包んでおく習俗もある。そしてこのような産衣の扱い方の変化の中に,実は生児をどのように考えていたか,生児の生命観というものをみることができるのである。
ウブギという言葉は共通語であるが,生まれた直後に生児に着せる着物,あるいはその状態をあらわす方言は多い。新潟県佐渡でヒナマキというのは,生まれて2日間ぐらい古着などに包んでおくやり方で,今では古着ではなく簡単な着物を着せているが,それでもこの期間の衣類をヒナマキと呼んでいる。ヒナは小さい生命,すなわち生児のことであり,ヒナマキはその生児を巻き包んでおく布である。秋田県では母の腰巻で3日間包んでおき,これをオヒナツツミと呼んでいた。石川県でもマエカケヅツミといい,七日の湯までは,生児を前掛で包んでおいたという。あるいは鹿児島県などでも3日間ぐらいは古布に包んでおき,これをボッサツツミというとか。
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