インターホン
春はチューリップと共に
船田 京子
pp.329
発行日 1978年5月25日
Published Date 1978/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611205386
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「旅は道づれ世は情」「犬も歩けば棒に当る」 長年勤めていた病院をやめ,少しの間ですがアムステルダムに滞在しています。真夏と真冬のヨーロッパは経験していますが,初夏の北ヨーロッパは初めてのため白夜に気が付かず,調子がおかしいのは時差の加減だとばかり思っていました。オランダは緯度が北海道ぐらいに当るせいか,曇って雨模様の日にはまだまだ寒く,皮のコートぐらいが必要です。少しむし暑くなりはじめた東京から一足跳びに濃いミルク色の中に降りたった私は,太陽の見えない空はどのくらい続くのかなあ,と一瞬思ったりしました。1週間のうち幾日かは陽が差し初夏の気配,と思うとまた曇ったりの肌寒い日の繰り返しのように思われます。
ところで,人の気質は多分に天候に支配されるのではないかと自重しながら,時差ぼけから脱け出るため,あちこちの観光と市内の散歩等,暇にまかせて歩き廻っています。カフェ,バーは遅くまで営業し,外が明るいため客足もなかなか途絶えることはありません。市内の雑踏から少しはずれると,一面の若草とのんびり草を噛む乳牛等が点在し,これが晩秋であるならば,ミレーの「落穂拾い」のようかな,などと色々と空想は拡がります。日本のように森が繁り,林があり,谷があり,ではなく,ここは規格化されたグリーン地帯,規則化された堀割りがあり,若草の色を映しています。
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