分娩体験記
滴り落ちる乳も与えられず
田中 久子
pp.42-43
発行日 1967年8月1日
Published Date 1967/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203442
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テレビの画面いっぱいに可愛いいベビーの笑顔が……,反射的に私はいつか目を閉じている.思い出すまいとしても,あの児の顔が目に浮かんでくる.納棺の時,一目見たいとお願いして見た児は,どこか主人の面影を忍ばせ目鼻立ちのしっかりした女児だった.一度も腕に抱くこともできず,滴り落ちる乳も与えられなかったわが児!!この世の汚れをなにも知らず生まれたままの姿で死んでいったあの児は,私の身体から抜け出した魂のようにも思える.私は生まれてはじめて悲しみがどんなものか,わかったような気がした.
これが親というものの気持なのかと埋葬をすませた頃のこと,とても長く感じられた5日間の入院生活が思い出される.(入院は以前私が勤めていた開業医院で,ベッド数10床,分娩月間平均30〜35くらいである)
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