- 有料閲覧
- 文献概要
ニューヨークでfamily practiceのレジデントをしていたのは20年も昔になる.その時は80人ぐらいの子どもを取り上げたのだが,最近は妊婦を診る機会が少ないためか,目の前に妊婦が現われるとドキドキしてしまう.産婦人科医不足によりお産ができる場所が少なくなり,問題が次第に大きくなっている.米国では家庭医やmidwifeが正常妊婦のprenatal careをしているので,産婦人科医は帝王切開などが必要な異常産婦に集中することができる.また,家族計画や性感染症予防教育や婦人科的ヘルスケアチェックもgeneralistの守備範囲である.わが国の保険医療システムには予防医療が含まれていないので,こうした領域はおろそかになりがちである.ヒトに感染する100種類以上のヒトパピローマウイルス(HPV)のうち約15種類が発癌性で,子宮頸癌の発症に関係している.そのうちHPV遺伝子型の16型と18型が最も検出頻度が高く,70%の子宮頸癌から検出されている.世界的には2価(16,18型)あるいは4価(6,11,16,18型,6,11型は尖圭コンジローマの90%以上に関連)ワクチンが使われていて,日本でも使われるようになる可能性がある.海外では性活動が始まる12歳前後にワクチン接種を勧めているが,わが国では誰がワクチンを勧めることになるのだろう.
治験や先進医療などの評価療養を除き,薬事法の適用外の医薬品を用いた診療や,保険で認められていない診療行為を伴う臨床研究は全額自由診療としなければならない.若い人のリンパ球などを取り出して注入する治療法など,有効性が確立していないだけでなく感染症の懸念がある治療法を蔓延させないためには,倫理性・科学性を評価することが必要である.「この薬を飲めば寿命が1年延びます.副作用はありません」といわれて触手を伸ばさないことは難しい.高利の金融商品であれば利息が振り込まれなくなれば騙されたと気づく.しかし,生命予後の改善薬や癌の治療薬などの効果を検証することは容易ではない.緑黄色野菜に含まれるβカロチンを喫煙者がサプリメントとして服用すると肺癌の罹患率や総死亡率が増加し,害になることが明らかになったが,こうした結論を導き出す臨床試験は時間的にも資金的にも大変だが保険診療との兼ね合いの中で実施する必要がある.こうした研究に参加し,また結果を患者さんに適切に伝え,生命予後だけでなく経済的,生活の質を向上させるのはgeneralistの使命ではないかと思う.
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.