現代のカルテ
天明キキン再発か
野口 肇
pp.48
発行日 1965年7月1日
Published Date 1965/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203009
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「会津磐梯山は宝の山よ,笹に黄金がエーまたなりさがる——」いまから180年まえ,天明年間(1784年)に未曾有の凶作が全国をおおい,とくに東北がひどいキキンにやられる.穀物は実らず,米価があがり,疫病がまんえんした.ウシ,ウマ,イヌ,ネコ,草の根から壁土までたべ,死人の肉すらくらった.会津方面の住民は磐梯山にのぼって野生の笹の実でうえをしのいだ.なんとも悲惨な歌である.江戸,京都,大阪では米騒動や一揆が連日つづいた.
その天明キキンにことしの日本農業がそっくりだと話題をにぎわせている,180年まえの太陽の黒点活動が酷似している.東北地方は冷害,裏日本は豪雨,西日本は干ばつに見舞われた,史上最大のキキンだった.「天明救荒録」という当時の公文最によると「正月(旧歴)16日大雪.19-20日雪.3月23-4日種まき.5月12日入梅.5月14-5日より田植.風雨有.甚寒冷.一両日晴.4-5日曇,雨天が8月下旬までつづく.夏の土用,ワタイレ.アワセを着る.虫類不生,6月下旬早苗出ず.同月大雨.7月17日霜,稲は丈長く,穂幅広く,マコモのようだ.室内で成長したようにいたってやわらか……」
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