講座
農家生活と婦人の地位—助産婦業務の円滑化をめざして
柿崎 京一
1
1教育大学社会学教室
pp.20-24
発行日 1962年8月1日
Published Date 1962/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202382
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はしがき
かつて,東北の山村で衣類の行商を通じて農家生活を観察した大牟羅氏は,衣類を「よく買つてくれる家というのは,(1)家族数が多い家,(2)くらしの豊かな家,(3)屋内が整然としている家といつたことが考えられそうですが,実はそれが全く反対で,(1)家族数が少く,(2)どちらかというと貧しそうな家,(3)家屋があまり整頓されていない家,こんな家が売れました」(同氏「ものいわぬ農民」P49)と書いている.こういわれてみて,なる程とうなずかれる読者もいるにちがいない.
私の経験でも,生活改善(主として生活施設の改善)を積極的にとりあげ,実践しているのは,分家層(家族構成が単純で,経営規模が小さい)で,家屋の建築年代も比較的新しく,生活施設の点では部落でもむしろ最も便利にできているような家であつた(岡田・神谷編「日本農業機械化の分析」).また,こんなことを見聞したこともある.いままで子供の守りを姑にまかせていた嫁が母親学級で子供のしつけは母親の手でという指導を受け,自分で面倒をみようとしたり,保育所に預けようとしたために,かえつて姑との折り合いを悪くしてしまつたことや,生活改善普及員が改良カマドの普及指導を実施したところ,一番強くこれに反対したのは,意外にも炊事を担当している嫁であつたということである.農村で助産業務に携つている人々も,これに似たような意外な結果に期待を裏切られたことが一度ならずあると思う.
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