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スイスの友へ①
長谷川 泉
pp.52
発行日 1962年6月1日
Published Date 1962/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202359
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友よ,季節が人間の心を支配することを感ずる時期になつた。大学の銀杏並木の緑がこよなく美しい。それは,灰色の冬空をのぞかせていた空しさとは無縁のものだ。
季節や風土が,人間の精神構造を左右することの重みを感ずることは,異境にある身の方が大きかろう。風化作用は,自然科学の世界のことだろうが,人の心のたたずまいにも風化作用はある。無心の自然物は,意識することもなく,自然の力のままに,風化されてゆくだけだが,人間の心は,消極的にも,積極的にも,風化を意識にのぼせて,人間としての主体性を持つことができる。
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