連載 妊産婦保健指導の実際・8
妊娠6カ月の指導
青木 康子
1
1日赤産院保健指導部
pp.25-31
発行日 1961年10月1日
Published Date 1961/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202210
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◇乳房の手当◇
分娩も無事にすみ,ほつとしたも束の間,乳房の腫脹や亀裂のために,褥婦はもちろん,医師や助産婦が手をやくという光景は,日常茶飯事のように遭遇することであり,ある意味では,分娩取扱いより,その看護や指導のほうがより難しいとさえ感じることもあります.ごく最近は母乳栄養の重要性が叫ばれ,再認識されつつあるようですが,一時は母乳をあたえることによつて母親の美容がそこなわれる,あるいはミルクのほうが乳児の発育がよいなどの考えが流行し,妊娠中乳房の手当を指導しても,「私は母乳でなく人工栄養でいたしますから……」などとはつきり断られ,指導している私達をあぜんとさせる妊婦さんも少なくありませんでした.更に乳業会社の宣伝攻勢がそれに拍車をかけ,一部の婦人の間には,ミルクで育てることのほうがインテリである,というような一種の誇りに似たものをもつているものもあるように思われます.このような風潮が多分にある現状では,亀裂を生じてしまつてから,疼痛におびえている褥婦に向つて,母乳の必要性をとき,将来少なからず人工栄養の不都合さに気付くであろうことを話しても,なかなか納得せず,目先だけの感覚や疼痛から逃れたいというだけで,ミルクに走つてしまうことが多いようです.特に初産の時に,乳房の疼痛や乳腺炎のために授乳を中止してしまつた場合は,二度目の時は必ずといつてよいほど,授乳に対して熱意はなく,最初から人工栄養にしてしまいます.
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