講座
エックス線と胎児
粟冠 正利
1
1東京医科歯科大学放射線科
pp.42-45
発行日 1961年2月1日
Published Date 1961/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202075
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本誌14巻5号45頁に田淵教授が原爆症と産科に就て報告されています.その結論の中で妊婦へのX線利用はなるべく遠慮する様に述べておられますので,この点に就いて知りたい読者もきつとおられる事でしよう.原爆症は異常体験ですがX線診断は日常茶飯事です.体に受ける線量には大小があつても,両方共イオン化放射線とよばれる点では共通なのですから注意深い方ならば関心を持たれるのは誠に尤もな事です.妊婦が放射線を受ける機会を考えてみますと,極く健康な方なら妊娠の始めに胸の検査のために写真を1枚とられる位が関の山でしよう.特別の場合にはX線骨盤計測術をうける事もある様ですがこれはあくまで特別です.勿論放射線は有害な手段です——ガンが放射線で発育を停めたりするのもこの有害作用によります——から敏感な生体に遠慮無しに浴せかければ害の有る事は判り切つています.併し幸にして現在程度のX線利用頻度なら,外国の事はさておき,我国では母体に対しては言う迄もない事,胎児にも恐るべき影響は無いと言つてよいでしよう.私もこの小文を草するに当つて小児科と産科の専門家に最近十数年間に我国で起つた胎児のX線障害の報告の有無を尋ねてみましたが,注目すべきものは無い様に御返事をいただきました.外国の報告を見ても,極めて初期,凡そ今から半世紀近くも前の報告にはX線流産の記事がある様ですがそれも極めて僅かで,人間の胎児に関する限りX線障害の報告は余り有りません.
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