随筆
足摺紀行
竹内 繁喜
1
1都立築地産院
pp.45-48
発行日 1960年8月1日
Published Date 1960/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201970
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1.まえがき
私は旅行が好きだ.都会地でも,山奥でも,辺鄙な海岸でもいい.団体旅行でもいいし,1人旅でもいい.けれども一番好きなのは1人か2人で,人が滅多に行かないような,物淋しい海岸等をさまようことである.いうまでもなく日本は小さい島国で,どこの海岸にいつても似たりよつたりの風景である.白砂青松の静かな浜辺,断崖絶壁に狂う怒濤,大抵は高い岬の突端に突つ立つている白い灯台,魚の臭の立ち込めたうらさびた漁村.どこに行つても同じような風景しか見られないのだが,それでいて未知の海岸に引かれ引かれて,毎年3〜4日間の休暇を利用して,私は殆んど日本中の海岸線を旅して回つた.小さい汽船に乗つて,日本海の荒波にもまれて,隠岐の島に渡つたのも,指折り数えるともう25年の昔になる.四国を旅したのも20年の昔であるが,その時にはどうしても高知県の西南部には行けなかつた.こうして「足摺岬」は私の長い間期待がかけられた海岸である.そして今度徳島市で開かれた第12回日本産婦人科学会が,私の悲願を成就する端緒となつたのである.
地方で学会が開催されると,その後で会員の懇親を目的として観光旅行がある.今度の場合でも,A.徳島—高松—琴平—高知—松山.B.小豆島.C.徳島—室戸—高知—琴平—高松の3コースが計画された.
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