今月の言葉
赤ちやんの社会生活
木下 正一
pp.5
発行日 1958年6月1日
Published Date 1958/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201478
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赤ちやんは,出生によつて始めてこの世の中の,つまり社会の一員となる.かくして赤ちやんは他人との接触・交渉をはじめて持つようになる訳である.しかし,他人と言つたところで,実は母親や家族の人々との接触や交渉がはじまる訳で,交渉とか接触とか言つても,赤ちやんは何も喋れないのだから,たとえば満足気な態度や,不愉快そうな顔つきや,啼きわめくことなどによつて母親や父親に働きかけるわけである.それに対して父母や祖父母,家族の人たちは「ヨチヨチ,今オツパイをあげるよ」などと赤ちやん用語を使つて応待するのであるが,赤ちやんにはこんな言葉が通じるわけはない.結局,本当に赤ちやんに通じる反応としては,乳房をふくませるとか,おむつを替えてやるとか,抱きかかえて御機嫌をとるというようなことである.
こういうふうな人間相互の交渉や接触は,私ども大人の世界のそれとは大分かけはなれ,ちがつているけれども,それでもともかくも一種の対人関係であることに違いないであろう.私ども人間の社会生活というものは,すでに生れたその日からこのようにして始まるのである.
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