講座
諸国及び日本の妊産婦死亡・1
瀬木 三雄
1
1東北大学
pp.34-39
発行日 1958年3月1日
Published Date 1958/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201441
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1.はしがき
かつて我国の妊産婦死亡は,他の多くの文化国に比して低率であつた.このことは外国でも注目していた処であり,戦後日本に進駐した米軍の司令部の統計担当者も,日本では届出が不完全ではないかと考えていた.私は日本の届出が不完全であるとは思わなかったが,それ程疑うのであれば産婦人科の医師に直接依頼しては如何と提言し,大阪で開かれた産婦人科学会に司令部のフエルプス氏が赴き,正しい届出を同氏から依頼した事があり,私も彼と同行し戦後でごつた返す大阪に赴いたことがある.
しかし,この頃に於いて既に日本の妊産婦死亡率は既に外国より高率になりつつあることを示す統計が入手されつつあり,私はやがて彼我の関係が逆転することが必至であることを警告したことがあつた.(昭和24年5月「産婦人科の世界」)それ以来,未だ10年を経ざる今日我国のこの死亡率の諸国との関係は正しく逆転し,日本は多くの白人諸国のうちにあつても高率群のうちに取り残されるに至り,私のかつての危惧は今や事実として出現するに至つた.最近の我国のこの死亡率は米白人の6倍,英国の2倍半という状況に至り,日本はセイロンその他中南米等の特殊高率地域を除けば,欧米のいずれの国よりも高い妊産婦死亡率を示すに至つたのである.私はここで,約20年間におけるこの死亡率の推移の概況を観察し,最近の状況を諸国のそれと比較観察してみようと思う.
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