講座
動物の妊娠とお産
一木 彦三
1
1東大農学部獣医学科
pp.53-59
発行日 1956年10月1日
Published Date 1956/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201140
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世をあげて計画出産とか,妊娠調節といわれる時代に家畜ばかりは産めよ殖やせよのスローガンが掲げられています.水産国日本とはいえ,強い国々から公海の立入制限や魚獲制限を強いられている今日では日本人の動物性蛋白摂取量を補うのに水産物だけでは充分ではないのです.そこで私達は家畜を殖やして乳を飲んだり,肉,卵等を食べたりするわけです.家畜はまた労力を提供したり,肥料,皮革,羽毛なども残してくれます.したがつて家畜を殖やすことは国家的に重大な意義があると同時に家畜を飼う者にとつて経済的に重大な影響をもつています.家畜を飼う者は自分の家畜の妊娠や分娩に一喜一憂するのです.良い家畜を殖やすために,まず良い優れた血統と秀れた能力を具えた種畜がえらばれます.
種畜にえらばれるには厳重な試験を受るわけですが,検査に合格した牡は種畜として人々に大事にされ,美味しい物を食い,交配料をもらつて交配に専心すれば良いので,人間様の男性とは大ちがい,だまつていても沢山の女性が名声をしたつて集つて来ます.ところが種牡になれなかつたものは大変,畜権(?)尊重もなにもあつたものではありません.大ていのものは去勢されて文字通り牛馬のごとく使われるか,肉となつて奉仕させられるわけです.そして私達はこんな動物を見るたびにやはり人間に生れて来たことを感謝せずにはいられません.
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