お産の俗信
胎教
日野 壽一
1
1東大
pp.48-50
発行日 1953年1月1日
Published Date 1953/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200257
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
支那伝来の思想に胎教腹育説とゆうものがある。妊婦の心理状態や行動が,胎兒の発育に影響し,分娩の難易を支配し,生れる子の生涯の性格に強い感化を及ぼし,或は胎内の女兒を変じて男兒とすること(変性子)もできるとゆうのである。この説をわが国に紹介したのは平安期初期第一流の漢方医学者たる鍼博士左衛門佐丹波康賴であり,その後を受けて正親町天皇の待医曲直瀨道三・豊臣秀吉の待医稻葉正治・文化年代の女科医蛭田克明・その門人富沢黄良等が述べたところを綜合してその大要を示そう。
「教育の力に待たなければ善い人はできない。それも胎内から始めなければならぬ。人は胎内にあつては母と気は一つである。母の心の様を子の心に移し,母の身のはたらきを子の身に移す。されば妊娠中,母の心が素直であれば子の心も正しく,母の身のはたらきが正しければ生れた子は年をとるにつれて行儀がよくなる。目に邪色を見ず,耳に邪声を聞かず,口に妄語せず,感情を平静にし思慮和順なれば,聖人が生れ,お産も軽い。
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.