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木村淳教授が新著「誘発電位と筋電図―理論と応用」を出版された.同教授はすでに名著“Electrodiagnosis in Diseases of Nerves and Muscles: Principle and Practice”を出しておられるが,今回は新たな構想で,より実用的なものを目指して書きおろされたものである.
木村教授が臨床神経生理学の分野で世界をリードする学者であることは今さら紹介するまでもないが,私は同教授のお話を聞くたびに,生理・解剖など基本的知見をふまえた集合電位の解釈の鋭さと独創性にいつも感心させられている者の一人である.本書には木村教授のそのような深い洞察力と独創性に基づく殊玉の記述が随所になされており,読み進めるうちにそれらを発見する楽しみがある.例えば,木村教授は常々日常の電気生理検査では波形を忠実に解析することが大切であることを強調しておられるが,末梢神経における刺激部位と記録部位が離れているときに生じるインパルスの時間的分散の記録波形に及ぼす影響が,波形の持続時間が短い神経活動電位では大きく,持続時間の長い複合筋活動電位では少ないことが明確に図示されている.このことは日常検査においても重要な知見である.また本書は,大脳に比べて比較的に単純と考えられる末梢神経・筋系の臨床的検査でも,工夫次第では,さらに精密な機能的検査ができることを教えてくれる.昔,太閤秀吉は「戦争は頭でするものじゃ」といったというが,本書は「臨床神経生理学的検査とは頭でするものだ」ということを教えてくれる.例えば,インパルスの衝突法を利用して,隣接する2個の末梢神経機能を分離して検査する方法,解剖学的神経走行の変則を同定する方法,同一神経内の異なる伝導速度をもつ線維の分布状態(伝導速度分布)の検査法など,あるいは複数の刺激電極を等間隔に配置して,同一神経の分節ごとの伝導速度を検査する方法(Inching法)など,著者の多くの独創的な方法が紹介されている.
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