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「不況の直撃下に苦悩する障害者福祉のあり方を考える」とでもいったセンセーショナルな題を掲げるわけではないが,この特集を企画したについては,深刻な不況と今後長期にわたって続くと予想される低成長時代において,真に足が地についた障害者福祉とはどうあるべきかを考え直してみたいということがあった.言い換えれば,高度成長のおこぼれをいただくような福祉ではなく,低成長下においても堂々と「権利としての福祉」を要求し実現していけるような福祉の思想の「強靱さ」を再確認したかったのである.
そのためもあって,今回はなるべく広い範囲の方々に執筆をお願いした.社会保障としての障害者福祉の基本的な考え方について書いて下さった坂寄氏は名著「社会保障」(岩波新書)の著者であり,広い視野からこの問題をとらえるいとぐちを与えて下さったように思う,小島氏の米国における不況下の障害者福祉の新しい動向の紹介は,わが国の問題を考える上でもよい参考になろう.筆者も昨年末の訪米の際には「リハビリテーション・モデルの多様化」の傾向に強い印象を受け障害者をtax-payerにすることばかりがリハビリテーションではないこと,tax-payerにはなりえない重度者の存在とそのためのhapiness-oriented programの必要性の認識など,アメリカの考え方にも幅が出てきた感がある.津田氏のは地域での実践にもとづく福祉行政の問題の提起であり,東京都という相対的には恵まれているはずのところでの低福祉の実態が浮きぼりにされている.二木氏のは現在入手しうる限りの統計資料を集大成し分析を加えた労作であり,事実に則して福祉の問題を考えてい上でハンドブック的にも役立つものであろう.鈴木氏にうかがったお話もいくつかの問題点の解明に役立ったと思うし,また吉本氏,調氏,原井氏,森口氏らにもそれぞれの角度から問題を照らし出していただいた.
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