書評
—宮坂 道夫(著)—「弱さの倫理学—不完全な存在である私たちについて」
山内 志朗
1
1慶應義塾大学文学部
pp.1137
発行日 2024年10月15日
Published Date 2024/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551203613
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著者は倫理を次のように宣言する.倫理とは,「弱い存在を前にした人間が,自らの振る舞いについて考えるもの」であると.
倫理学は正義とは何か,善とは何か,幸せとは何か,そういったことを考える学問だと考えられている.ただ,そういった問題設定は強い者目線での思考に染まりがちだ.強さは戦いを招き寄せる.だからこそ,世界的な宗教は,キリスト教も仏教も徹底的に弱者の地平から人間の救済を考えてきた.本質的に人間は弱く不完全であり,不完全なまま生き続けるものであるという事態を前にして,私たちは絶望に陥らず希望を語ることが求められている.
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