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大学院時代に医学部の人体解剖学実習に参加し,献体を解剖する機会を得た.学生時代にも参加したが,その時は明確な目的意識もなく,教員に言われるままに取り組むしかなかった記憶がある.大学院生のときは社会人学生であり,日々悩みながら臨床を行っており,人体の筋や関節周囲の構造をしっかり観察したいという目的で取り組んだ.その当時の大学の解剖実習は,昼から夜20時まで休みなく行う実習が4か月続くものであり,学部生はかなり疲弊していた.私は目的が明確であったために,時間も忘れて夢中に取り組んだ.皮膚剥ぎから行い,自分が観察したい部位にたどり着くまでには,丁寧な作業とかなりの時間を要した.しかしその過程において,決して解剖学書や解剖模型では見ることができない,皮膚の下に存在する結合組織の多さ,その巧みな構造を自分の目で見て,自分の手で触れることができた.本書6ページの「図6 筋筋膜の拡大写真」は,まさしく私が解剖実習中に観察したものである.筋よりも,それを取り巻く結合組織である筋膜が極めて重要な役割をしているという印象を受けたのを思い出す.
ずいぶん前になるが,石井美和子氏(Physiolink代表)と福井勉氏(文京学院大大学院教授)より,『アナトミー・トレイン』の原書第1版を紹介された.トーマス・マイヤース氏による,人体を走る「筋筋膜経線」を鉄道路線に見立てた斬新な考えに興味を持ちながらも,その解剖学・組織学的裏付けにやや疑問を抱いた.また,筋筋膜経線に焦点が当てられていたため,理学療法にどのように応用すればよいのか,特に評価にどう応用していくかについて,わからないままであった.つまり,「筋筋膜経線」を理解するための自分の準備が,臨床的にも学術的にも不十分な状態であった.日本で開催されるトーマス・マイヤース氏の研修会にも誘われたが,あまり参加する気持ちになれず,参加しなかった.
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