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「T先生はかなり厳しい先生だから,寒い北国青森出身のお前なら耐えられるんじゃないかと思って……」と実習担当の先生に言われ,T先生のもとでの実習が決まりました.実習は早朝リハビリテーション室の掃除から始まり,午後からは個別の治療や研究の時間となり,私も深夜まで研究のモデルとなったりしました.夜遅くに実習の宿舎に帰り,そこからレポート用紙100枚以上の症例報告を手書きで作成します.朝方までかかって書いた自信作もT先生の前では紙くずとなり,手書きでしたので前半の1か所を修正すると,その後半はすべて書き直しになります.何回も何回も指摘され,考え,修正し,また指摘され書き直し…….どんなに「私は頑張って書きましたが,疲れ果てています.もう勘弁してください」という顔をしても,T先生に一切の妥協はありませんでした.担当患者に関してはもちろん,治療見学や患者との話し方,立ち居振る舞いに至るまで厳しく指摘されました.実習後半は「塚本くん」と呼ばれただけで失禁しそうでした.
今,臨床実習指導者となった自分は,学生に配慮し,気遣い,おだて,慰め,遠慮し,顔色を見,体調を気遣い,自分の言葉で語らず,自分の背中を見せず,養成校からの指導方針に従い,少し離れたところから接するような実習をしてはいないだろうか? そういった気持ちや態度は,一見,客観的にみると学生に優しいようですが,実は自信のない自分に嘘をつき自分を守り,一番守らなければならない患者に嘘をついているからこそ学生に厳しい指導ができないのではないかと自問自答しています.T先生は私に本気でぶつかってくれたのだと,今ごろになって気づかされています.学生にとって厳しいことを言うこと,正しいことを目を見て言うことは,学生以上に言う立場の人間のほうが痛いし傷つくことも,この歳になって実感しています.
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