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Ⅰ.はじめに
―「訓練室訓練至上主義」からQOL向上にむけた病棟評価・訓練の重視を
入院患者にとって,病棟とは実際の生活の場である.したがって本特集のテーマである病棟での訓練・評価とは,実際の生活の場で行う評価・訓練ということである.
従来は,理学療法も作業療法も本来は設備の整った訓練室で行うべきものであって,病棟での評価・訓練は,脳卒中,脊髄損傷などの急性期か,癌や重症臓器不全などのように全身状態が不良で生命の危険があったり,訓練室・診察室に行く耐久性がなかったりする場合に「やむをえず」行うものだ,という考え方(いわば「訓練室訓練至上主義」)が強かったように思われる.
しかし,リハ医学は第2次大戦直後の発足にあたって,ADL(日常生活行為)に代表される「生活の視点」をそのアイデンティティ確立に不可欠な基本的概念としたのであり,その原点に立ち返れば,入院生活における生活の場である病棟こそ本来もっともふさわしい評価・訓練の場といわなければならない,これはADLに代わってQOL(「人生の質」)がリハの最終目標となり,「QOL向上のためのADL自立」が重要になった現在1,2),ますますその重要性を増している.
すなわち病棟での訓練・評価をリハ・プログラム全体のなかにどのように位置づけるかは,現在のリハ医療における最大のテーマともいえる「各患者のQOL向上にむけてのリハ技術の開発と再統合3)の要(かなめ)であり,病棟での評価・訓練のプログラムの更なる緻密化が必要である.
病棟での評価や訓練は,病棟でのADLが自立すればその後は必要がなくなるというものではなく,まして病棟でのリハ・アプローチは看護婦が主体であり,リハ専門職は訓練室が主体というものではない.
病棟で行う評価・訓練は,われわれが最近作りあげてきた「積極的リハ・プログラム」4-16)において,極めて本質的な核となる点である.この「積極的リハ・プログラム」とは,脳卒中リハの再検討と,癌患者と臓器不全患者からなる「ハイリスク・体力消耗状態」17-21)患者についての新たなリハ・プログラム作りという,一見全く異なるように思われがちなものを車の両輪のようにして,「QOL向上のための具体的な技術の開発・体系化」という共通の目的のもとに進めてゆき,最終的に両者に,そしてその他の疾患・障害にも共通する原則として確立されたものである.その確立にいたるまでの一連の検討のなかで病棟評価・訓練の必要性・有用性が痛感され,実感されてきた.この経過および具体的なデータについては既論文を参照していただくこととし,本稿では病棟で行われる評価・訓練の意義について,リハの真の目的であるQOL向上にむけての視点から再整理することにする.
なおここで一言つけ加えておきたいのは,病棟での評価・訓練は入院中の訓練室での訓練との関連のみでなく,外来リハ7,22)も含めたリハ・プログラム全体のなかで位置づけを考えることが不可欠だということである.この点については本誌7)においてもすでに,「入院リハ至上主義」からQOL向上にむけての外来リハ(「外来訓練」ではない)の重視へと視点を転換する必要性について論じており,本稿はその内容が前提となっているので,ぜひご一読いただきたい.
そこでは入院リハにおける病棟評価・訓練の重要性を特に次の2点について強調した,第1は,入院リハの最大のメリットは,専門的なリハ・アプローチが,診察室・訓練室での診察・訓練の時間帯だけでなく,患者が実際に生活するすべての場所・時間帯で行えることである.この点が生かせなければ,外来で通院して訓練室で訓練時間帯のみ行うアプローチと大差はなく,むしろ入院リハのデメリット,すなわち家庭と地域社会から切り離されるというマイナス面のみが残ることになる.第2に,入院の目的がリハではなく,1日を通しての疾患管理の必要のために入院している場合(「ハイリスク・体力消耗状態」,神経疾患の症状進行中の急性期16)など)で,訓練室には行けないような時期・状態のときに病棟で行う評価・訓練は極めて高度のリハの知識と技術を必要とするが,また極めて効果的なものであるということである.この第2点目は,リハの対象の拡大の面からも重要である.
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