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Ⅰ.行動科学の誕生
「行動科学」は第二次世界大戦後のアメリカで生まれた新しいタイプの科学である.1953年にアメリカ・Ford財団が支援して,スタンフォード大学に「行動科学高等研究所」が創立され,「行動科学研究計画」に数百万ドルの研究費が支給され始めてから,急速にその名称が普及していった.当時のアメリカでは科学の大型化が進み,プロジェクト型の大型科学(big sciences)が次々と作り出され,さまざまな財団や政府機関から厖大な研究費が注ぎまれていた.原子核科学・宇宙科学・情報科学・コンピューター科学はこうして誕生した大型科学であり,行動科学もその一つである.これらの大型科学は,①達成すべき具体的で明確な目標をもち,②その目標を達成するために必要な科学的知識と技術とをもった専門領域が等しく参加し,③学際的(interdisciplirary)協力体制を組んで進められるところに特色がある.ところが既存の科学にはそれぞれ独自の言語(用語)と方法(研究モデル)とがあり,意識の上でも相互の垣根は高く,そのことが学際研究の進展をはばんできた.こうした異分野科学間の共同研究を可能にしたのは,第二次世界大戦前から進められてきた新しい研究方法が一定の完成度に達し,諸科学に共通の研究方法として広く導入されたことにある.
行動科学は「人間行動の一般法則性の探究」という目標を,自然科学と社会科学に広範にまたがる専門領域から,多角的に研究する科学として出発した.これに参加する専門領域は,心理学・医学・生物学のように実験を重視する領域から,社会学,経済学,政治学,法律学など,もともと実験の伝統が無いか,あってもその占める割合が非常に小さい領域にわたっていた.
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