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21世紀最初の年である一昨年にはニューヨークでの同時多発テロに引き続き炭疽菌騒ぎが起こり,昨年はウエストナイル熱がアメリカで流行し,今年は年頭からイラクの問題もからんで,1980年に根絶が宣言されたはずの痘瘡(天然痘)が話題になっています.19世紀後半,1868年のハンセンによるハンセン病(かつて「らい病」と呼ばれていました)の原因菌の発見以来,細菌学が進歩し,20世紀後半にはウイルス学が長足の進歩をとげて,人類は感染症との戦いに勝利するかに思えたものです.1977年にアフリカのソマリアで最後の天然痘患者が発見されて以降,天然痘の新規患者の発生はなく,1979年に世界保健機関は天然痘の根絶を確認し,人類は史上初めてひとつの感染症を地球上から根絶したことを宣言しました.この調子で麻疹,マラリア,結核等々,人類を苦しめてきた感染症を克服できるのではないかと考える人も多かったのです.しかしそれは人類の驕りであったのかもしれません.1981年,アメリカのCDCは男性同性愛者の間で後天的に免疫を低下させる疾患が流行していることを報告しました.これが後にエイズと呼ばれることになる病気の初めての報告です.MRSA(メチシリン耐性黄色ぶどう球菌),VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などの院内感染症,エボラ出血熱などの新興感染症や結核,マラリアなどの再興感染症,そしてバイオテロと,20世紀後半から21世紀にかけてわれわれは感染症との戦いに新たな局面を迎えているといえましょう.本稿ではそんな時代における感染症の基本的な知識について解説したいと思います.
感染症と伝染病
定義の仕方によっては若干の違いがあると書かれている専門書もありますが,伝染病と感染症についてはほぼ同じ意味と考えてよいと思います.簡単に言えば伝染る(うつる)病気,病原体が伝播されて起こる病気が感染症あるいは伝染病です.ここでいう病原体とは感染症を引き起こす微生物です.病原体にはウイルス,リケッチア,細菌,原虫などがあります.微生物とは言えないかもしれませんが,異常プリオンや寄生虫も病原体に含めています.
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