トピックス
klotho遺伝子と個体老化
黒尾 誠
1
1テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター
pp.807-809
発行日 1998年8月1日
Published Date 1998/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543903590
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はじめに
老化の分子機構の解明は,医学・生物学に残された最大の未解決課題の1つであり,その重要性は万人の認めるところであろう.老化とは「加齢に伴う個体の生理機能の劣化」と定義されるが,あまりに広範な現象を含むので,その分子機構の解明といっても具体的にどのようなアプローチを用いればよいかが問題である.個体老化の分子機構に迫る有力な方法として最近成功をおさめたものの1つに,ヒト早老症候群の原因遺伝子の解析がある.早老症候群とは,若年のうちからさまざまな老化の徴候(白髪禿頭,白内障,皮膚の萎縮,動脈硬化,悪性腫瘍,骨粗鬆症など)を呈して,早期に死亡してしまうまれな遺伝性疾患の総称であり,その原因遺伝子の解明によって老化の分子機構を探る手がかりが得られつつある.
最近,筆者らはまったく独自のアプローチによって,ヒトの老化によく似た多彩な表現型を示す新しい老化モデルマウスを開発した1).これはトランスジェニックマウス作製中に導入遺伝子の挿入突然変異によって偶然得られた系統で,さまざまな老化の表現型が常染色体劣性遺伝を示すミュータントである.筆者らはこのマウスを,ギリシャ神話の生命の糸を紡ぐ女神の名にちなんでklothoと命名した.本稿ではklothoマウスの老化モデルとしての有用性と,その原因遺伝子の同定について述べる.
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