増刊号 感染症検査実践マニュアル
Ⅵ.感染症とその検査法
20.食品由来寄生虫症
丸山 治彦
1
,
名和 行文
1
1宮崎医科大学寄生虫学教室
pp.6,192-196
発行日 1996年6月15日
Published Date 1996/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543902773
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はじめに
寄生虫症は,かつて日本ではありふれた疾患であった.医療関係者にとって寄生虫疾患の検査・診断はルーチンワークに属するものであり,検便をはじめとする各種検査で寄生虫の虫卵や虫体を発見することはごく日常的な出来事であった.ところが30〜40年の間に日本の寄生虫保有者数は激減し,寄生虫症は一般に“克服されてしまった過去の病気”とみなされるようになった.現在ではなんらかの症状があるときに患者はもちろんのこと,医師でも寄生虫疾患を疑うことはまずないであろう.また実際に,寄生虫疾患の頻度は高くはなく,検査材料中に虫卵や虫体が発見されることも頻繁にあることではない.しかし,寄生虫疾患は日本から消滅してしまったわけではないし,ごく一部の限られた地域にだけ発生しているわけでもない.最近しばしば話題になっているいわゆる輸入寄生虫症だけではなく,古典的な回虫や吸虫の“在来種”による寄生虫症は現在も実際に日本各地で発生している.
寄生虫症が存在しない,と思い込むことの弊害は顕著である.寄生虫という原因がわからないために悪性腫瘍などを疑って,結果的には不必要でしかも高額な検査を繰り返し,その間不適切な治療が行われることになる.また,どうしても診断がつかず症状も軽快しないとなれば,患者は入院したまま退院できないことになり,患者とその家族に経済的負担を強いる.さらにあまりにも時機を逸すると寄生虫症の診断を得た後でも治療が難しくなる場合がある.
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