検査データを考える
糖尿病
大井 一輝
1
,
小森 広美
1
1東邦大学医学部附属大橋病院糖尿病科
pp.367-371
発行日 1993年4月1日
Published Date 1993/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543901463
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はじめに
健常者の血中グルコース(血糖)値は,食事,運動,ストレスなどによるわずかな変動はあっても1日を通じてほぼ一定に保たれている.消化管からの吸収,肝のグリコーゲン分解,組織蛋白からの新生と脳,筋,脂肪組織,赤血球などによる消費とのバランスのうえに成り立っているからで,このホメオスタシスは,インスリンの血糖降下作用と成長ホルモン,ACTH,副腎皮質ステロイドホルモン,グルカゴン,アドレナリンの血糖上昇作用によって調節されていて,調節機序が破綻をきたしたときに異常高値や異常低値を呈する.ここで取り上げる糖尿病はインスリンの作用不足によって生ずる病態で,血糖値は高値となり尿糖の排泄をみる.1日の血糖の動きと尿糖の関係をみると(図1,波形実線は1日の血糖の動き),血糖コントロールの悪い場合の血糖は1日中高く推移して,尿糖が1日中排泄され,しかも多量で,口渇,倦怠など糖尿病症状が出没する.一方,改善した例や理想的なコントロール例では尿糖はごく少量となり,時にはまったくみられないこともある.したがって,検査値のみをみた場合,糖尿病例であっても採血時間や採尿時間が空腹時であれば,血糖値が正常,尿糖陰性のことはよくあり,また明らかに血糖高値であり,尿糖多量であれば,最も頻度の高い糖尿病をまず疑うか,糖尿病治療がうまくいっていないと考えるのが常識である.
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