トピックス
インフルエンザ生ワクチンの可能性
上田 重晴
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1大阪大学微生物病研究所防疫学部門
pp.1231-1232
発行日 1990年8月1日
Published Date 1990/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543900358
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インフルエンザの予防にわが国では不活化ワクチンが用いられてきたが,ここ二,三年はその効果と副作用の点で種々の疑問が出され,ワクチン接種率は従来の20%以下になっている.筆者も不活化ワクチンを注射するという現行の方法が理にかなっているとは思わないので,その効果については限界があると思っている.インフルエンザのような気道粘膜の感染が直ちに発病につながるような場合には,ウイルスの進入門戸である気道粘膜での感染防御が成立するかどうかが病気の予防にとって最大のポイントになる.この点で,生ワクチンを自然感染ルートに経鼻噴霧すると,気道粘膜上に分泌型IgA抗体の産生を期待できるのと,最近明らかにされつつあるT細胞レベルでの核蛋白(NP)1),あるいは膜蛋白(M)2)認識による交差免疫の成立が期待できる点,生ワクチンには不活化ワクチンにない大きなメリットがある.
インフルエンザ生ワクチンの開発・研究は,1960年代の初め頃から本格的に始まった.アメリカのChanockら,ソ連のSmorodintsevらが,そして日本では奥野ら3)が先鞭をつけた.有効性のメカニズムは別にして,Jenner以来ほとんどのワクチン開発は生ワクチンの研究が先行していた,インフルエンザの場合も同様であった.現在,最も研究が進んでいるのは,上記のグループよりは遅れて研究をスタートさせたMaassabらによるものである.
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