明日の検査技師に望む
系統的診断過程の中の臨床検査へ
奥田 清
1
1大阪市立大学医学部臨床検査医学教室
pp.958
発行日 1990年6月1日
Published Date 1990/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543900288
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まことに逆説的な表現ではあるが,もしこの世の中から一切の疾病が消滅したとすれば,われわれ医療従事者の職はまったくなくなってしまうことになろう.各種の検診についてもやはり病気の存在を意識しての仕事であり,例外ではない.換言すれば,患者さんあってのわれわれの仕事ということになる.当然といえば当然ではあるが,時には患者の存在を忘れがちになるのが現実ではなかろうか.特にこの傾向は,自動化や機械化の先行している検体検査の領域で強いように思われる.
一般によく知られているように,疾病の診断は,症候論的(問診,病歴など),理学的(打,聴,視,触診など)な方法による系統的,縦断的な診察に始まり,次に血液学,臨床化学などの検体検査やふるい分け的なX線などの画像診断,あるいは心電図などの生理検査によって横断的に広く情報を集め,陰性成績による除外診断と陽性所見により病態が把握され疑診を得て,最適と思われる精査方針を立て確診に向かって過程を進めることになる,このように診断は縦糸と横糸がうまく交錯しながら織り上がるように行われるが,でき上がる布は患者についてそれぞれ1枚である.すなわち,医療の対象はあくまでも患者個人であり,群ではない.一方,検体検査の領域について考えてみると,中検や検査センターで毎日扱う検体は群であり,分析を担当する技師の意識は,主として精度管理に向けられているのが実情であろう.
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