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医学生から前期研修医まで使用できるアトラス
2008年に初版が発行された,『組織病理カラーアトラス』の第2版が刊行された.初版の序に書かれているように,本書は基本的には医学生を対象に編集されたものである.本書の旧版は病理組織実習の携行書として多くの医学生に使われていたが,今回の版もその基本的なところは継承しており,総論・各論に分けて,その両方を行き来しながら病変と疾患の概念の理解を深めていけるように配慮している.扱っている項目は基本的に変わりないが,この7年間で変化した用語や概念に対応しており,いくつかの点で明らかな違いが指摘できる.例えば,子宮頸部の重層扁平上皮の腫瘍性病変は,旧版では「異形成−上皮内癌−微小浸潤癌−浸潤性扁平上皮癌」と項目立てされているが,新版では「子宮頸部上皮内腫瘍−微小浸潤癌−浸潤性扁平上皮癌」となっており,cervical intraepithelial neoplasia(CIN)の用語,概念を前面に出した記載となっている.同様のことは膀胱の尿路上皮性腫瘍や,甲状腺低分化癌などの記載にも窺える.また,医学生にとって理解しにくいと思われる非上皮性腫瘍について,旧版では総論の部分でさまざまな腫瘍を紹介していたが,新版では総論での記載を最小限とし個々の腫瘍の紹介は各論に移している.この新版の配置のほうが医学生には使いやすいと思う.
実際にページをめくってみると,総論はさらに代謝障害,循環障害,炎症,腫瘍などの章に分けられており,そのうち,例えば循環障害の章では,出血,浮腫,血栓などの項目が基本的に1項目1ページで扱われている(重要な項目は数ページに及ぶところもある).各項目ごとに冒頭に「概念」として簡潔な説明がまとめられ,その後に項目の説明文が続き,代表的な1〜数枚の組織像が簡単な説明文とともに提示される.各論部分も基本構造は同様で,こちらは臓器ごとの章となっているが,各項目では冒頭に「疾患概念」としてその疾患についてまず理解しなければいけないことがまとめてあり,続いて「病理診断のポイント」として診断上の重要所見が説明され,さらに写真,という配置になっている.各論部分で工夫してあるのは,各章の最初に「基本構造のチェック」という項目が置かれ,簡単な模式図とともに臓器の正常構造の説明がなされている点である.医学生は以前に学習したマクロ解剖学と組織学の知識を忘れていることが多いため,このページは自己学習に有効であろう.組織写真は旧版同様見やすく,大きく配置されており理解しやすい.
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