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新しいヒトのヘルペス科のウイルスが米国NIH (National Insti-tute of Health)のGallo博士らのグループにより発見され,ヒトBリンパ球向性ウイルス(human B-lymphotropic virus;HBLV)と名づけられて"Science"に発表されて2年近くになる1,2).このウイルスはAIDS患者2例,発症はしていないがエイズウイルスに対する抗体陽性者3例,白血病患者1例の合計6例(いずれも免疫不全と深い関連ある疾患である)の末梢血リンパ球分画の培養より分離され,核内増殖,微細構造,DNAの性状などから新しいヘルペス科のウイルスであることが決定された.病原的な意味では,いわゆるみなしごウイルスであったが,このウイルスの発見が特に注目を引いたのは"Science"の同じ号の論説に,一時期Epstein-Barr (EB)ウイルスが病原体として疑われながらも,病因が確定していないタホ湖周辺の奇病‘chronic fatiguesyndrome’の病原体として疑われていることが掲載されたことによる.慢性のかぜ症状を主訴とするchronic fatigue syndromeは,そのために死に至ることはまれであるが,やる気をなくし職場から離脱してゆくという,まさに奇病である.その原因は今日でも明らかにされていない.
このウイルスはPHA(phyto-hemagglutinin)で活性化されたヒトのリンパ球(通常は臍帯血のリンパ球が用いられる)に感染し,増殖し,そのリンパ球を破壊する.Gallo博士らは感受性のあるリンパ球はB細胞に限られるという成績を示し,このウイルスにHBLVの名を与えた.しかし,Gallo博士らとは独立に同様なウイルスの分離を行い研究を行っているアトランタCDC(Centers forDisease Control)のLopez博士らおよびその後の多くの研究室の成績では,このウイルスはT細胞に感染し増殖するということが明らかとなった3).したがって,Bリンパ球向性の名を冠することは妥当でないとして,ヒトを自然宿主とする6番目のウイルスという意味でhuman herpesvirus-6(HHV-6)の名で最近は呼ばれている.ちなみに,従来から知られている五つのヒトのヘルペス科のウイルスとは,単純ヘルペスウイルス1型(HHV-1),単純ヘルペスウイルス2型(HHV-2),水痘帯状疱疹ウイルス(HHV-3),ヒトサイトメガロウイルス(HHV-5)およびEBウイルス(HHV-4)である4). 昨年10月フロリダで開催された3rd lnternational Conferenceon Immunobiology and Pro−phylaxis of Human HerpesvirusInfectionsにおいてもHHV−6の問題は大きく取り上げられ,免疫生物学を中心としてLopez博士により,またDNAの構造を中心としてHoness博士(NationalInstitute for Medical Research,England)により詳細な報告がなされたが,いかなる疾病の病原体であるかは依然として謎であった.
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