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感染症患者において,起炎微生物を分離培養し同定することはもっとも直接的な診断法であり,その治療法の選択や効果の判定においても非常に重要であることはいうまでもない.しかし,呼吸器感染症の起炎微生物は細菌,真菌,Chlamydia,ウイルス,原虫,寄生虫と多岐にわたっており,これらの中で培養が比較的容易な細菌と真菌がルチーン検査の対象となっている.ウイルスやChlamydiaも培養可能であるが,特殊な技術を必要とするため,一般の検査室では検査の対象外となっている.
喀出痰の場合,喀出される過程で種々の程度に上気道の常在菌による汚染を受け,その培養結果は必ずしも下気道の感染を反映しないため,呼吸器感染症の診断法としての意義について否定的な意見も多い1,2).しかも近年,Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌),Haemophilus influenzae(インフルエンザ桿菌),Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌),Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌),Enterobacteriaceae(腸内細菌)あるいは真菌などの潜在的に病原性を持つ微生物を常在菌として上気道や腸管などに有している患者が多く3),かつこれらの微生物は宿主の免疫能低下などに伴い病原性を発揮する場合があるため,このような患者から得られた分離菌はそれが真の起炎菌であるか否かの判定がしばしば困難となる.しかし採取に際して苦痛を伴わず,また特別の器具を必要とせず患者自身で行える方法であり,現時点においては下気道感染症患者における起炎菌検査のための検体の大部分を占めている.このような状況の中で検査結果を有意義なものとして診断・治療に反映させるためには,検査室側の技術の向上のみならず,臨床医は適切な検体の採取の施行・指導を行うとともに患者背景,その他の必要十分な情報を検査部に提出し,両者の密接な提携のもとで起炎微生物の決定を行うことが必要である.
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