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エリスロポエチンについて
エリスロポエチン(Erythropoietin;以下Epo)は生体の赤血球生成を亢進させるホルモンとして,近年になってその作用の特異性が確立された物質である.このEpoに関する研究の発端は,1906年フランスのCarnotとDefrandreの実験に始まると言われている.すなわちCarnotらは瀉血を行って貧血にしたウサギの血清をほかの正常ウサギに注射するとその赤血球数が増加することから貧血動物の血液中には赤血球数を増加させる物質が含まれると考えて,これにHemopoietinの名を与えた.CarnotらのHemopoietinは当時,多くの人たちから注目され,追試が引き続いて行われたが,いずれもその再現性を証明することができず,Hemopoietinの考えは一時ほとんど顧みられなくなった.このHemopoietinは,より特異的に赤血球系の細胞(erythroid cell)に関係する意味でerythropoietinと呼ばれるようになったが—erythropoiesis stimulating factor;ESFも同義語—約半世紀の後に,このErythropoietinの存在を万人が納得する方法で証明し,今日の発展の基礎を築いたのはReissmann,Erslevらの動物実験,及びStohlmanらの臨床的観察の成果である.すなわち,1950年,Reissmannは2匹のラットをparabiosisにして,その一方だけを低酸素下におくと,他方のラットにも赤血球の造血が亢進することを認めて体液性物質の存在を証明し1),またErslevは,Carnotらの実験の追試を行う際,より大量の瀉血貧血ウサギの血清を用いることによってCarnotらの実験成績,考え方が基本的には誤りでなかったことを証明した2).一方,Stohlmanらは身体の一部,下半身が酸素飽和度の低い動脈血で灌流されている動脈管開存症(patent ductus arteriosus)の一症例について,正常酸素動脈血の灌流領域である胸骨,上腕骨の骨髄にも,酸素飽和度の低い腸骨骨髄と同様,赤芽球の著明な増殖があることを認めてEpoの存在を臨床的観察によって確認するとともに,Epoの産生部位が低酸素動脈血の灌流領域(下半身)にあることを推論した3).その後,Epoの産生には腎臓が密接な関係を有することが明らかにされている.
Epoは,その存在が確認されるとともに,Fri-ed4),Filmanowicz5)らによって現在のバイオアッセイ法が確立され,ある程度量的な検討が可能になって以来,飛躍的に発展し,測定方法の開発,国際的な活性の標準化,血漿(ヒツジ血漿)及び尿からのEpo活性物質の抽出と純化,産生部位あるいは産生機序,生体内での作用機序,臨床的意義などについて長足の進歩が得られてきた6).特にEpoの作用機序について,生体の赤血球の生成を調節している機構を解明しようとする立場から多くの基礎的研究が行われてきた.この点について,1961年,Filmanowicz,Gurneyらは正常マウスに過剰輸血を行って人為的な多血状態にすると,マウスの赤血球生成が完全に停止し,その造血組織から赤芽球が消失するが,このマウスにEpoを注射すると,24時間後に最も幼若な赤芽球(前赤芽球)が出現し,以後時間的経過に応じて各成熟段階の赤芽球が出現してくることを認めた7).したがってEpoは形態学的に捕らえられる最も幼若な赤芽球(前赤芽球)よりも前の分化の段階の細胞—現在この細胞は赤血球系の幹細胞(erythroid cornmitted stem cell,erythropoietinresponsive cell;ERC)と呼ばれている一に働いて赤芽球への分化を誘導するものと考えられ,造血の幹細胞に関する研究の端緒となった.現在では,分子生物学的な見地から,抽出したEpoを一つの手段として利用し,赤芽球分化の機序あるいは細胞分化の機序を解明しようとする方向に研究が発展しつつある.
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