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はじめに
寄生虫の検査は「形態観察」による同定に依存する.寄生虫に分類される生物は「動物界」に分類され,「原生動物」を含め多種である.ウイルスや微生物における感染と,寄生虫の寄生は区別して理解しなければならない.寄生虫症の治療は,虫体検出ならびに虫卵などを検出することで,寄生する部位と,寄生虫の種を同定することで方針が決まる.寄生虫は検体処理過程や組織標本などから,偶発的に検出されることが多くなった.近年,日本国内でヒトへの寄生が恒常的な寄生虫種は限られている.したがって,患者の海外渡航歴の有無は寄生虫罹患を疑うときに重要な要素である.国内在住者は食生活の内容,居住地域と居住環境,伴侶動物や家畜との関係など,情報を得て,寄生虫を念頭に置いた検査を進めることが望ましい.
寄生虫からの情報が検出されるのは,血液,糞便,喀痰のほか,腹水や組織である.近年,画像診断装置の普及と性能向上で,寄生虫がみつかる症例が多くなった.図1に示すように,寄生虫疾患が疑われた場合,検体に応じた手技を行い,光学顕微鏡で観察するのが通常の方法である.日本で寄生虫疾患が日常的であった1950年代から医療に従事していた人材が,定年退職し,寄生虫の判定を的確に行うことのできる検査技師は少なくなったが,顕微鏡で寄生虫の同定を行う検査法は変わらない.見慣れていない寄生虫卵,原虫囊子,成虫,幼虫の同定は,アトラスを参考にするか,専門家に依頼すべきである.寄生虫の形態観察は,生物学的な観察手技である.原虫や虫卵は立体構造であり,液浸標本に仕上げた検体をスライドガラスに載せ,カバーガラスで被うとき,圧力をかけると形状が破壊される.観察が長時間に至り,標本を被う液体の蒸発でカバーガラスが貼り付き,原虫囊子や虫卵を壊してしまう.検出した寄生虫卵や原虫を記録するため,寄生虫の顕微鏡検査ではデジタルカメラやVTRカメラを付属させた装置での観察が必要である.近年,小型ハイビジョンカメラの性能が向上し,メモリーへの静止画像や動画が撮影できる機種が豊富になった.さらに光学顕微鏡・実体顕微鏡に取り付けたカメラから,パソコンに画像を取り込む装置は,同定の正確性を高め,正しい情報を得ることができる.パソコンに取り込んだ静止画像,または動画をCD・DVD,メモリー装置に記憶させることで,専門家に形態の判定を依頼するときに効果的である.同定を専門家に依頼する場合,顕微鏡から得られた画像をe-mailに添付するのが素早い対応である.送信画像には物体の大きさがわかりやすいよう,メジャーを入れるとよい.また,判断に必要な患者情報について,差し支えのない範囲で示すことも必要である.
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