- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
ワルファリン投与量を決定する因子
ワルファリン(warfarin,WF)は発売以来50年以上もの間世界で最も繁用されている抗凝固薬である.特にわが国では経口投与可能な唯一の抗凝固薬である.しかし,抗凝固効果〔国際標準比(international normalized ratio,INR)で評価する〕の個人差が大きいためWFの投与量は患者間で10倍以上も異なり,投与量の設定が臨床上非常に困難である.そこで経口投与後WFが血中に現れるまでの体内動態(pharmacokinetics,PK)に関する過程とWFが血中に現れてからINRを発現するまでの感受性(pharmacodynamics,PD)に関する過程に分けて,それぞれの過程における個人差にかかわる影響因子について,日本人を含むアジア人,白人,黒人患者を対象にさまざまな検討がなされている.その結果,これらPKとPDとのそれぞれの過程に遺伝子変異が大きく影響していることが現在明らかにされつつある.WFの投与量を決定するPKとPDとにかかわるこれらの遺伝子変異の寄与の程度がわかれば,抗凝固治療における遺伝子検査の役割が明らかとなり,患者ごとのWFの至適投与法の設定(テーラーメード治療)へと発展する可能性がある.
WFの体内動態に影響する遺伝子変異
薬物の効果あるいは副作用は血漿中遊離形濃度(unbound plasma concentration,Cu)に大きく影響される.WFはほぼ完全に肝代謝により消失する薬物であるので,経口投与後のWFのCuは患者の肝代謝活性(肝固有クリアランス:hepatic intrinsic clearance;CLint,h)で決定される.WFは光学異性体の等量混合物(ラセミ体)の製剤として市販されているが,抗凝固効果はS(sinisten,左)体(S-WF)がR(rectus,右)体(R-WF)よりも3~5倍強力であるため,WFの薬効の個人差をもたらすPK上の要因としては患者のS-WFの主代謝酵素であるCYP(cytochrome P450)2C9活性が臨床上重要となる.近年,CYP2C9活性に大きく影響する要因としてCYP2C9遺伝子変異が注目され,さらにこれらの変異の出現頻度には著しい人種差が存在することから,WFの薬効へ及ぼす人種の影響についても興味が持たれている.現在までのところ,CYP2C9遺伝子については24種の多型(CYP2C9*1~CYP2C9*24)が報告されているが,そのなかで日本人において臨床的意義が明らかになっている変異はCYP2C9*3のみである.CYP2C9*3変異を有する日本人の患者ではCYP2C9*3変異によりS-WFの肝代謝活性が低下し,その影響がWFの投与量の低下に反映する(図1)1).すなわちCYP2C9*3変異を有する患者に対してはINRを治療域にコントロールするためにWFの投与量を減ずる必要がある.このようにS-WFの肝代謝活性の低下作用を有するCYP2C9*2やCYP2C9*3変異型についてLancet2)やJAMA3)に報告された臨床試験成績をまとめると,以下の結論が導かれる.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.