今月の主題 唾液と汗
総説
分泌液の免疫グロブリン
小林 邦彦
1
Kunihiko KOBAYASHI
1
1山口大学医学部小児科
pp.971-979
発行日 1986年9月15日
Published Date 1986/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542913062
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はじめに
われわれの周りには無数の微生物や異物が存在し,つねにそれらの体内への侵入の危険にさらされている.われわれの身体の表面を覆っている皮膚や粘膜は,最初にこれらの微生物や異物と接触する組織である.粘膜は皮膚と異なり単層の粘膜上皮で覆われ,物理的に脆弱であるにもかかわらず異物や微生物の体内侵襲を防いでいる.この粘膜における生体防御のメカニズムの一つは,粘膜における外分泌液の分泌である.外分泌液は糖蛋白質であるムチンを多量に含んだ粘稠な液体で,これが粘膜上皮を覆うことで,物理的に異物と粘膜上皮との直接的な接触を防いでいる.また,この分泌液にはリゾチームやラクトフェリンなどの抗菌成分も含まれ,病原菌の増殖に抑制的に働いている.粘膜におけるこのような生体防御機構は非特異的な現象であるが,分泌液には抗体(免疫グロブリン)の関与する特異的な防御機構もある.ヒトの免疫グロブリン(immunoglobulin;Ig)はIgM,IgD,IgG,IgA,IgEの五種あり,血清ではそのIgの80%前後がIgGで占められるが,分泌液ではIgGはマイナーなIgで,代わりにIgAがメインのIgとして存在している.このことから,分泌液の存在する粘膜上では,このIgAが生体防御の第一線で働いていることを容易に想像させる.
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