走査電顕の目・6
鉄欠乏性貧血の赤血球
小川 哲平
1
1慶大内科
pp.681-682
発行日 1973年6月15日
Published Date 1973/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542908124
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鉄欠乏性貧血はきわめて多い貧血である.従来,萎黄病,胃酸欠乏性萎黄貧血,本態性低色素性貧血などと呼ばれる原因不明のもの,さらに無胃性低色素性貧血,鉤虫症貧血,妊娠性萎黒貧血などもその本態は鉄欠乏とみなされこれに含まれる.
体内の総鉄量は健康成人で3-5gで,そのうちの約3gがヘモグロビン鉄,約1gが貯蔵鉄として存在し,血清鉄は全量約3mgである.血清鉄値は100-120mcg/dlであるが,血漿は300-360 mcg/dlまでの鉄を結合しうる能力があり,これを総鉄結合能と呼び,この両者の差を不飽和鉄結合能と呼ぶ.1日の食餌は約10-20 mgの鉄を含んでいるが,実際に吸収されるのは約1mgにすぎない.鉄は2価のイオンとして十二指腸壁から吸収されるが,胃酸の欠乏は鉄の吸収に妨げとなるといわれ,胃切除,慢性胃炎などは鉄欠乏の原因となる.吸収された鉄は,粘膜上皮細胞内でアポフェリチンというタンパクと結合してフェリチンとなり,フェリチンは鉄を血流中に放出し再びアポフェリチンとなる.鉄は血漿中のβ-グロブリンの一種であるトランスフェリンと結合して骨髄に運ばれ,ヘモグロビン合成に用いられ,またその一部はフェリチンまたはヘモジデリンの形で肝,脾,骨髄に貯蔵される.赤血球が崩壊して遊離した鉄は再び造血に用いられるため,生体からの鉄の排泄はわずかで,1日0.5-1.5mgで,吸収と排泄とは平衡を保っている.
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