『医学常識』
検査結果の記録と検討の重要性
鈴木 秀郎
1
1東京大学附属病院臨床検査部血清検査室(田坂内科)
pp.299-301
発行日 1958年5月15日
Published Date 1958/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542905466
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はじめに
2つのものが「同一である」とか「相等しい」という概念は数学的なものであつて,現実にそのようなことはないということは誰でも知つている。たとえば内径・厚さ・長さを指定して小試験管を1000本ばかり注文したとしよう。とどけてきた品物は大体において注文の規格にあつていても,肉眼でみた丈で太さや厚さや長さが異つている品物が大分まじつているし,規格どおりのものでも精密に測定してみれば寸法はまちまちで「相等しい」試験管などは存在しない。化学薬品も同様である。食塩ひとつを例にとつてみても2級・1級・特級などという規格があるのは製品の純度が異つているからであるし,同じ特級品でも精密な分析試験をしてみればやはり「相等しい」品物は全くないに相違ない。ガラス製品や化学薬品にして既にそうなのであるから,細菌検査室で使用する培地やWida1反応用の菌液,あるいは血清検査室で用いる抗原液や抗血清のような生物学的な製造過程をへて作られるものは,その差違はもつと甚しく数学的な「同一性」など全然望めないのである。
ただこれらの品物はいずれも定められている精密度というものがあつて,実際に使用してみて不便のない程度の誤差や不純度ならば許容される訳である。したがつて規格品というのはその程度の意昧で「相等しい」品物というのであるから使用する側ではそのことを充分に心得ていなければならない。
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