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第46回日本臨床病理学会総会は,去る1999年11月10~12日の3日間,熊本市において熊本大学医学部臨床検査医学の岡部絋明教授を総会長として開催された.本総会のテーマは,"医療革命"であり,学会内容はまさに21世紀の臨床検査に向けての地殻変動を感じさせるものであった.医療を取り巻く環境は著しく変貌し,従来とは異なる新たな価値基準が必要とされる.情報化,国際化,高齢化など医療を取り巻く環境変化を反映した臨床病理,検査医学に関するさまざまな講演,シンポジウム,ワークショップ専門部会講演会が企画された.一般演題にも,これからの医療における検査について,貴重な発表が多数みられた.
特別講演「AIDS発生病理とその治療:明日への課題」(満屋裕明先生,熊本大学免疫病態学)では,HIV-I感染症の発生病理に関する最新の知見とそれに基づく治療の進歩について報告され,今後の臨床検査の在り方に示唆に富む内容であった.HIV-I感染症では,発生病理としてHIV-Iの増殖動態と細胞内への侵入機構が解明されつつあり,それに基づく治療の進歩は目覚ましい.ウイルスの治療薬として逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤による強力な化学療法の導入により,HIV-I感染症は病勢を一定期間コントロールし得る慢性疾患的性格を有するようになった.一方,治療薬により一度は増殖抑制されていたウイルスも耐性を獲得し,さらに他の薬剤にも交差耐性を示す多剤耐性の出現が問題となりつつある.ウイルスは,抗ウイルス剤作用を排除するため抗ウイルス剤の標的となる酵素の構造と機能を遺伝子変異により変化させ巧みに増殖を続ける.治療抵抗性を獲得したウイルスの治療薬の開発には,ウイルスと酵素の相互関係を分子レベルで解析することで有効な治療薬の設計が可能となった.このように今後しばらくの間,ウイルスの巧みな増殖の継続と科学の進歩またはヒトの英知との攻めぎ合いが続くと予想される.診断においては,HIV-Iの増殖動態や細胞内侵入機構の解明が患者診断に利用できるよう臨床検査の開発・普及が迅速,継続的に行われる必要性がある.検査の対象は,治療薬の選択において,耐性に関する遺伝子変異を検出する核酸検査,病勢進行の個体間差を説明し得る細胞内侵入に必要な蛋白発現の多様性(多型)検出などである.HIV-I感染症だけでなく多くの診療領域において,研究室レベルで明らかとなった知見,開発された技術は,迅速に患者診療に応用することが求められ,研究室から検査室への流れは,今まで以上に迅速性と高度技術が要求される.科学の進歩をいかに迅速に患者診断に利用し診療の質向上につなげるか,21世紀の臨床検査へ向けて臨床病理/臨床検査医学に課せられた使命は大きい.
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