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医療の分野の中で検査室へのコンピュータの導入は,医事会計,給与計算などの経理業務を除いた部署の中では最も早くになされ,現在では数世代にわたってハード,ソフトともに更新(バージョンアップ)したことにより飛躍的な進化を遂げつつある.当初,経理と同様に数値(デジタルデータ)を多用する検査業務はデータ処理をしやすい点で必然的にコンピュータと結びついたものである.さらに,コンピュータは画像,人工知能(artificial intelligence;AI),ネットワークシステムなどの情報処理システムとして幅広い分野にも進出して,多様な用途に活路を拓きつつある.また,比較的大規模な医療機関では院内の情報システムが整備・統合され,いわゆるオーダーリングシステムが定着してきた.検査室はこの院内情報システムの中で,従来からの単なる数値情報の受け渡しだけでなく,画像や波形情報の提供,検査情報に関する幅広い診療支援を行うことが比較的簡単に可能となってきた.現状では,デジタル化された画像情報はあまりにも膨大になるために,検査システムとして検体検査と同様にオーダーリングシステムに組み込むことは多少困難であるが,最近の画像データ圧縮技術および通信方法の進歩,容量の大きな記憶媒体の開発で実用のめどがたってきた.特に,これからは長期データベースサーバーを最大限活用して,これらの豊富なデータベースを単に蓄積するだけでなく臨床医が容易に活用できる環境を提供することが求められる.ファジー,ニューロ,カオスなどの理論を実践するエキスパートシステムを積極的に取り込んだ診断支援プログラムの活用も実用段階に入りつつあることから,このシステムを検査システムに組み込む試みも開始しなければならない.
次に,ネットワークシステムが非常に急速に普及しつつあり,なかでも手軽な手段としてインターネットを臨床検査情報の交換に利用する動きがある.医療の形態が変化しつつあり,政策的に病診連携を積極的に薦める動きが加速している中で,基幹病院の医師と地区の医師会員がインターネットをとおして検査情報を交換するシステムがすでに軌道に乗っている地域もある.しかし,このような医療情報のオープン化はセキュリティの面では無防備となる可能性が高い.現在でもエイズなどの感染症で問題となっているが,患者情報の守秘は,今後ますます重要な問題となるであろう.利便性と個人情報の秘匿とは相容れないのが実情で,永遠の課題である.また,社会の国際化は飛躍的に日常化しており,検査情報についても,今後は国際間で情報ハイウェイに乗ってのやり取りも視野に入れる必要性がある.臨床検査標準化プログラムと歩調を合わせて,臨床検査情報システムの国際標準化プログラムが"数多く"実行に移されつつある.すなわち,コンピュータシステムや通信手段を問わずしてデータを互換するしくみの構築である.ただし,この"数多く"に問題があり,1つの統一されたシステムが実現するには多少の時間がかかるものと思われるが,これらが淘汰されて国際標準臨床検査システムが完成するのは時間の問題である.そのようにして検査情報の互換性が達成されれば,患者にとっては医療の質の向上と経済的負担の軽減,検体採取の回数の減少によるQOLの改善などの望ましい環境が実現できるであろう.すなわち,患者は一定のフォーマットに収納した検査データを何らかの記憶媒体に記録して,国内はもとより世界中で持ち歩くことが可能となる.これが広く活用されるようなことが現実になると考えるだけでも興奮を覚える.
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