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1997年8月7日,厚生省は医療保険改革案を与党医療保険制度改革協議会に提出した.その改革案の柱は,医療費の総額抑制と患者の負担増からなっている.医療費抑制のための制度改革では,診療報酬体系に"定額払い"を大幅に拡大し,薬価制度では"参照価格制度"の導入を提唱している.患者の負担増では,すでに1997年9月からサラリーマンの本人負担増を2割に増加しており,与党はきたるべき参議院選挙を睨んで,さらに患者負担増を進めることに一応反対している.医療保険制度改革が,行政改革とともに,今後どのように推進されるかおおいに注目される.
医療経済は,その時代時代にどのような方針で医療政策が進められてきたかに大きく依存している.すなわち,戦後1960年までは,国民に対する医療の供給体制(アクセス,access)を改善することに主眼を置き,国民皆保険が実現した.1970年代になると,劇的な経済発展に併せて医療の質(quality)を向上することに主眼が置かれ,したがって臨床検査室の設備投資が急速に増加した.この時代は,患者数が増えなくても,年々15%程度の検査業務の増加が続いた.しかし,1980年代になると,総医療費の増加率が国民総生産の増加率を上回る事態が続く中で,医療のコスト(cost)を考慮に入れた医療行政がとられた.すなわち,医療費の適正化が前面に打ち出され,臨床検査分野では,検査料の引き下げ,検査実施料と判断料の分離,マルメ方式による検査料の支払いなど,年々抑制策がとられてきた.これによって,1970年代から1980年代前半にかけて年々増加していた検査室の収入も大きく様変わりし,総医療費のll%程度を占める検査料比率が続いている.そして,1990年代に入ると,コストを考えながら質の向上を目指す政策が打ち出されてきた.すなわち,基本的には出来高払い方式を維持しながら,一部患者の負担増を導入してきたのである.年々約1兆円ずつの総医療費の増加を抑えることはできないまま,40年前の1955年には総医療費2,400億円足らずであったものが,1995年には27兆円に達し,現在29兆円代に入っている.すなわち,対前年度比で約5%程度の増加である.臨床検査の市場規模も,1995年には米国で3.3兆円,わが国で1.65兆円,ヨーロッパ連合全体で6,650億「llと推定されている.ヨーロッパ連合のうちでは,ドイツが1,935億円,フランスが1,271億円,イタリアが1,066億円,スペインが608億円,英国が419億円で,スイス,ベルギー,オーストリア,スウェーデンと続いている.検体検査だけについてみると,米国では総医療費の3~4%,欧州各国が2~3%であるのに対して,わが国では6~7%を占めている.また,わが国では,画像診断,生理的検査などに対する投資額が圧倒的に大きく,これが医療機関の経済状態にとってさらに大きな負担になりつつある.
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