コーヒーブレイク
身近かな事件簿
屋形 稔
1
1東新潟病院
pp.542
発行日 1995年5月15日
Published Date 1995/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542902470
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1994年の数多い犯罪の中でも世間の耳目を聾動させた2つの事件があった.松本のサリン中毒事件と筑波の母子殺害事件である.両者とも医療従事者にとっては身近かな事件として忘れられないものであった.前者は特に,私と同じ検査部の元教官で郷里の病院長をしているM氏の弟さんが犠牲者の一人となったことで関心深かった.後者は事件の約20日後に父親が犯行を自白し,この人は医師で,母親も私たちの身近かな検査センターの夜勤をしていたという報道がはなはだショッキングであった.
サリン中毒事件のとき病院に運び込まれた直後の患者の最も目立った所見は,縮瞳,息苦しさ,吐き気などで,診断上重視されたのがコリンエステラーゼ低下で,検査医学上もポピュラーな有機リン系の中毒症状と判断され治療を開始された.そしてこの初期の処置は,物質が神経ガスの一種サリンと分析されたときも大きな謬りではなかったのである.化学構造式で両者の酷似は一目瞭然で,神経ガスはより毒性が強く,多くの死亡者が出たことは不幸であった.
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