表紙の裏話
耳の中のアンプ,血管条辺縁細胞の機能を探る
山地 真裕美
1
,
安藤 元紀
1
1岡山大学大学院教育学研究科細胞生理学研究室
pp.828
発行日 2013年8月15日
Published Date 2013/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542103513
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- 文献概要
音が聴こえるとはどういうことか.音,すなわち空気の振動は,外耳道を通って鼓膜を振動させ,中耳の耳小骨を介してリンパ液で満たされた内耳に伝わる.こうして空気の振動がリンパ液の振動に変換される.リンパ液の振動は内耳の基底板を揺らして,その刺激により音受容器である有毛細胞のイオンチャネル(イオンの通り道)が開き,+の電荷を帯びたK(カリウム)イオンが細胞内に流入することで電流が生じる.この電気信号が神経を介して“音”として認識される.
有毛細胞がその機能を最大限に発揮する“場”を作るのが,内耳蝸牛内の血管条組織である.筆者らが研究対象としているのはこの組織の辺縁細胞と呼ばれる上皮細胞で,内リンパ液で満たされた内リンパ腔に面し,その名のとおり“縁”に位置している.この細胞が聴覚機能の場を作るのに中心的な役割を果たしている.今回の表紙をご覧になって,変わった形の細胞だと思われたであろう.辺縁細胞は,内リンパ液に接する部分は平らである一方,その反対側は細胞膜が高度に折れたたまれた構造をしている.この折れたたまりは表面積を増大させるための工夫であり,その表面に埋め込まれたたくさんのイオンポンプが,せっせとKイオンを内リンパ腔に向けてくみ上げている.そのKイオンを有毛細胞が利用して電気信号を発生させる.
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