今月の主題 漢方医学と臨床検査
話題
漢方薬(補剤)は癌の悪性化進展および転移を抑制するか?
済木 育夫
1
Ikuo SAIKI
1
1富山医科薬科大学和漢薬研究所病態生化学部門
キーワード:
癌転移
,
マクロファージ
,
NK細胞
,
十全大補湯
,
血虚
Keyword:
癌転移
,
マクロファージ
,
NK細胞
,
十全大補湯
,
血虚
pp.389-394
発行日 2003年4月15日
Published Date 2003/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542100922
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1. はじめに 高齢化社会の進行とともに医学的,社会的難題として認識されつつある多くの疾患の1つに,癌が含まれる.わが国では,癌による死亡数が増え続け,今や国民の3人に1人以上が癌で亡くなっている.特に肺癌,大腸癌や乳癌による死亡数は増加の一途をたどり,また,多くの場合遠隔組織への転移が直接的あるいは間接的にその死因にかかわっている.化学療法をはじめとする癌に対する近代医学の進歩にもかかわらず,依然として再発・転移による死亡を阻止することが難しく,克服すべき大きな課題となっている.さらに,合成医薬品のもたらす劇的な治療効果に対して,その重篤な副作用(免疫抑制あるいは毒性など)が逆に疾患の完治あるいは根絶を困難にしている.QOL(Quality of Life:生活の質あるいは生活の輝き)の概念の確立とともに,生体と癌が首尾よく共存・共生しようとする考え方もある一方で,これに対応すべく癌治療への新たな方法論や方向性を導入する動きがある.こうした現状のなかで,漢方薬などの伝統薬物,いわゆる天然薬物への社会的関心や期待から,これらを用いた基礎的および応用研究が活発に行われつつある.
臨床における漢方方剤は,術後の全身状態の改善あるいは放射線照射・化学療法による副作用の軽減などを目的に使用されている.最近では,癌治療の免疫応答修飾剤(biological response modifier;BRM)の1つとして漢方方剤が注目され,数多くの報告がなされている.なかでも,十全大補湯,補中益気湯あるいは人参養栄湯を含む補剤は,免疫賦活作用を有し抗腫瘍・抗転移効果を発揮する漢方方剤として知られている.
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