今月の主題 海外旅行と臨床検査
巻頭言
海外旅行と臨床検査
伊藤 喜久
1
Yoshihisa ITOH
1
1旭川医科大学臨床検査医学
pp.1215-1216
発行日 2006年11月15日
Published Date 2006/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542100746
- 有料閲覧
- 文献概要
平成17年度(2005年度)法務省入国管理局の出入国統計によれば,外国人入国者は700万人を突破し過去最高となり,一方,日本人出国者は,1,700万人で,過去最高の2000年に次ぐ記録であった.近隣アジア地区での経済発展と,輸送力増強の支えによるもので,全世界での海外旅行熱はさらに一層高まり,世界は距離を縮め,文化,文明の隔たりを急速に狭めつつある.
飛行乗務,自衛隊海外派遣,探検,災害救助,帰郷,観光など職務や目的,期間,目的地など個々の置かれた状況は異なるが,海外旅行/渡航では,多かれ少なかれ様々なストレス環境に曝されることになる.しばしば普段経験しない生物学的,物理的,化学的な刺激が負荷され,生体反応,機能不全がもたらされる.短期一過性から長期持続性まで多様で,単なる機能変化から不可逆的な異常,死に至るものまで多種多様で,全身の臓器,組織のすべてに及ぶ.主なものでも,時差ぼけ,エコノミークラス症候群などの環境変化,マラリア,性的接触感染症,不衛生な食物摂取によるA型肝炎,旅行者下痢症などの感染症,予期せぬ事故,高地や砂漠などの極限環境での激しい生体侵襲など枚挙に遑がない.ベースには旅行者の健康状態,年齢,性,生活習慣などが深くかかわる.糖尿病,動脈硬化症,呼吸器疾患などの基礎,慢性疾患などを持ちながら旅を楽しむ人も数多い.しかし多飲,多食,疲労など移動滞在環境の変化が契機となり身体的,精神的な生活リズムの変調をきたしやすい.これらのすべての因子が,強弱を交えて複雑に相互作用しながら,特異な生体病像が形成される.
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.