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はじめに
骨髄のなかでは,日々に新しい血液細胞が生み出されている.赤血球からリンパ球まで,それらすべての系列の血液細胞は造血幹細胞から分化する.造血幹細胞は,骨髄移植などにより長期にわたって造血能の再建が可能な細胞であり1),血液を構成するすべての細胞成分に分化する能力をもち(多能性),無限に近い増殖能をもっている.そして,細胞分裂により,より分化した造血前駆細胞を生み出すと同時に,一方の細胞は造血幹細胞として自己複製し,個体が生き続ける限り血液細胞を供給し続ける.1段階分化が進んだ造血前駆細胞にも多能性をもつものがあり,また,単能性の細胞も成熟血液細胞の産生を行っている.造血幹細胞,造血前駆細胞とも非常に高い増殖能力をもっているが,それらの細胞の比率がほぼ一定に保たれるように増殖能は厳密に制御されている(図1).細胞外因子,細胞膜表面の蛋白質,細胞内シグナル伝達系,転写制御系などによる精密な制御により血液細胞の恒常性が維持されているのである1).
主な血液疾患には,造血幹細胞から造血前駆細胞の分化段階において異常細胞が出現し,その細胞が他の正常細胞の増殖を抑えて異常増殖する白血病と,再生不良性貧血のように血液細胞の産生が低下している病態や,血液細胞のもつべき機能が低下している病態がある(図1).以前より,転写因子の異常が血液疾患,特に白血病の発症に強くかかわっていることが示され,多数の遺伝子異常が報告されてきた.最近の報告では骨髄性白血病症例の半数以上が何らかの遺伝子異常を有し,それらの多くが転写因子の異常を伴っているという2).異常はいろいろな遺伝子に起こりうるが,その結果として他の細胞よりも増殖や生存のうえでアドバンテージを得られる場合に白血病を起こす.したがって,血液細胞の増殖や分化を制御する遺伝子の異常が白血病の発症につながる可能性が高い.本稿では,血液細胞の産生を制御する転写因子,白血病発症にかかわる転写因子異常について概説し,その臨床的な意義を明らかにしたい.
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