特集 診療報酬改定・96年4月を検証する
今後の診療報酬体系と政策展開
広井 良典
1
1千葉大学法経学部経済学科
pp.873-877
発行日 1996年9月1日
Published Date 1996/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541901915
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はじめに—医療保険をめぐる現状認識
日本経済の失速により医療保険財政の悪化が一気に顕在化する中,介護保険の通常国会提出が見送られることとなった.この結果,いうならば,介護問題への対応という“当面の応急手当”と,構造的な危機に瀕している医療保険制度全体の再編という“大手術”とを「分けて」考えられなくなった,というのが,日本の医療保険制度をめぐる現在の基本的な状況である.
今回の診療報酬改定は,直接には昨年11月の薬剤費適正化に関する中医協・診療報酬基本問題小委員会報告書と中医協建議書を踏まえたものであるが,もともと基本問題小委員会は平成3年7月に発足したものであり,平成5年9月には今後の診療報酬のあり方についての包括的な報告書を公表していた.しかしながら,上記のように医療保険制度全体の改革の方向がまだ定まっておらず,そして,実は診療報酬そのものの「体系」の見直しが引き続いての検討課題とされているのが現状であり,こうした意味では,今回の改正は,多くの実験的ともいえる要素を含んだ興味深い内容となっている半面,いわば“既存の大枠の中での若干の改善”にとどまるものであることは否めない.中医協の診療側・支払い側ともに,今回の改正を「診療報酬の抜本的な改定に向けた一歩」と位置づけていることもこれと符合する.
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